「ゆったりと落ち着いた気分になれるこの家が大好き。25年住んできて、使いづらいと感じたところがないんですよ。最初に、この建築家は私の感性に合うと思った直感が間違っていなかったのでしょうね」。真冬、寝る前に香奈枝さんが窓を拭いていると、伸之さんは「結露は困るな」とぽつりというそうです。
「メンテナンスフリーとはほど遠い、手間のかかる家だけど、大好きなわが家ですから、健康が許す限り補修しながら住み続けたい」という香奈枝さん。日本の住宅は年月とともに不動産価値が下がるのが当たり前になっているが、大塚邸を見る限り、住み方によっては価値が上がる家もあることを実感した。そして天国にいる里見さんには「あなたが26年前に設計した家は、住む人の心づかいで、竣工時よりも魅力的に成長していますよ」と伝えたくなった。外部に開かれた快適性をどのようにつくり出すかが、設計のポイントだった。洗濯物や布団が外から見えないようにするために、囲われたルーフガーデンを設けているが、そうしたことも里見さんの街や住宅に対する「美学」でもあった。食卓とほほ同じ高さにした窓。棚をL字型にまわして、窓際を生活空間に取り込んでいる。